研究方針

1.はじめに

 地震に先行する動物異常行動の存在は証明されていません。しかし、人間が作るセンサーよりも高感度である動物センサーが地球上に無数に存在しているという観点においては、その利用に関しての研究価値が指摘されていました(力武、1978)。
 動物異常行動が地震予知に応用できるか否かを議論するためには、地震先行現象としての動物行動を確立する必要があると考えられます。そのためには科学的な研究対象としなければならず、動物の挙動を定量化することが求められています。動物の挙動の定量化については、日々の観察やセンサーを用いた行動や鳴き声などの定量化、既に存在する搾乳量や産卵量などの数値データを利用する手法などが旧来から考えられています(力武、1978)。
 近年のパソコンやスマートフォン、IoTセンサーなどの急速な技術の発展は、いままで不可能であった専門機関を問わない世界規模での動物の24時間モニタリングを可能とするものであり、科学的データとしての活用が期待されています。
 当会では、パソコン、スマートフォン、IoTセンサーなどを利用して、全国で飼育されているハムスターの回し車の回転数を収集して共有化するネットワークと、付随する環境データなどの収集ネットワークを構築して、地震などとの関係を探ることを目的とします。

2.科学的研究の現状


(1)宏観異常現象(こうかんいじょうげんしょう)とは
 宏観異常現象とは, 人々が視覚や聴覚といった五感によって自然界の異常を観察できる現象のことです. 例えば, 犬が意味もなく悲しく吠えたり, 冬眠中の蛇が地中から出てくるなどする動物の異常, 季節はずれの開花や結実などの植物の異常, 井戸や温泉, 河川の水位や水質の異常, さらに, 発光現象, 異常気象, 鳴動など様々です. そして, これらの異常現象が地震に先立ち, もしくは 同時に観察されたとして世界各地からの報告が残されています.
 「宏観異常現象」という言葉は中国語から由来した経緯(力武, 1998, 2001)からも推論されるように, 中国では宏観異常現象の研究は盛んなようでです(中国安徽省地震局, 1979;中国科学院生物物理研究所地震グループ, 1979;尾池, 1978). 特に世界で初めて地震予知に成功したと伝えられた1975年の海城地震(M=7.3)の先行現象には動物異常行動をはじめとする様々な宏観異常現象が考慮されたと報告されました(蒋, 1979).

(2) 過去の研究
 日本における研究は, MILNE(1888), 今村(1927, 1931, 1943), 武者(1931, 1932, 1935, 1957)が過去の様々な事例を収集した. 力武(1978a, 1978b, 1979, 1983, 1986, 1987a, 1987b, 1998, 2001), 力武・鈴木(1979)は大地震に関わるアンケート調査を実施し地震の規模や距離などとの関係を探るとともに, 地震予知への応用に関して包括的議論を行われています. 1995年の兵庫県南部地震では弘原海(1995)が事例を収集しました. 日本での異常報告は魚に関するものが多く見受けられます. 魚類と地震との関係に関して, TERADA(1932a, b, 1933)はアジの漁獲量と地震発生回数との相関が高いことを報告しました. 末廣(1933, 1949, 1968, 1971, 1975, 1976), SUYEHIRO(1934)は地震に対するハマトビウオやリュウグウノツカイなどの様々な魚類の異常生態に関する事例を報告しました. その後のアジの漁獲量と地震との関係に関してはTOMODA and HIRONAGA(1989)がTERADA(1932a, b, 1933)と同様な指摘をしています.

3.ハムスター観察ネットワークについて


(1) 2005年に、全国のハムスターの回し車の回転数を収集するシステムを実験的に開発しました.
 磁石を回し車に取り付けて、回転信号をコイルで拾いパソコンのマイク入力で計測して、データをメールで送信するアプリケーションを開発しました.


(2) 2018年、スマホでハムスターの回し車の回転数を測定できるアプリを開発しました。
  磁石を回し車に取り付けて、回転信号をスマホの磁場センサーで計測する仕組みです。
  データ送信機能は開発中です。